私たちの研究室では
わたしたちの研究室では,超伝導現象の中でもジョセフソン効果に注目して研究を行っています.ジョセフソン効果を用いたデバイスが応用化されれば,半導体デバイスでは実現できなかった様々なことが可能になります.また,ジョセフソン効果は理学的にもたくさん魅力がつまった現象です. ※ジョセフソン接合にも様々なタイプがありますが,ここではSIS形のジョセフソン接合いついて解説します.定性的にわかりやすい解説を心掛けたため正確性に欠くことがあるかもしれませんが,ご了承ください.
超伝導電子の電子状態
ジョセフソン効果を理解するために,まずは電子状態について考えていきましょう.主に金属中などの通常の電子はフェルミ粒子(フェルミオン)であるため,エネルギー状態はフェルミ分布に従って,エネルギーの低いところから,一つの準位に2つづつ詰まっていきます(パウリの排他率). 一方,物質が超伝導状態に相転移すると電子状態が変わり,全ての電子がボース粒子(ボソン)となり最低のエネルギー状態に位置することができます.(それゆえ上位の準位との間に大きなエネルギーギャップが生じます.) これは全ての電子の波動関数が揃うことを意味しており,超伝導体内部はひとつの波動関数で記述することができます.
ジョセフソン接合とは
2つの超伝導体を近づけて行き,その差がnm程度にまで近づくと,超伝導体同士が弱く結合します(弱結合).弱結合した2つの超伝導体は同一の波動関数になろうとします.そのためそれぞれの波動関数の位相差を埋めようと,電圧降下を伴わない超伝導トンネル電流が流れます(ジョセフソン電流).ジョセフソン電流が生じる接合をジョセフソン接合と呼びます. ジョセフソン電流は相互作用を考慮した量子力学を元に導くことができ,sinθに比例します.θは2つの超伝導体の位相差です. これは波動関数の位相差という測ることが難しい量が,電流といった観測が容易な物理量で出現するということです.これは巨視的量子効果と呼ばれています.したがって,ジョセフソン接合は私たちが通常暮らすマクロな世界と微視的なミクロな世界の架け橋と言えるでしょう.
ジョセフソン効果
次に,ジョセフソン接合に直流の電流源を接続して電流を流してみましょう.電流源から電流が流れるると,一方の超伝導体の波動関数が乱され,その位相差を埋めようとジョセフソン電流が流れます.これを直流ジョセフソン効果と呼んでいます.位相差が埋まっても電流源は接続されたままなので,それがまた波動関数を乱し...というように連続的にジョセフソン電流が流れます.つまりゼロ電圧で直流電流が流れます.
さて,電流の量を増加させていき,臨界電流値を超えると,これ以上ゼロ電圧で電流を流すことができなくなります.しかし,電流源はつながったままですから,電流を流すためには,図の左のフェルミの海の上端が右の上の準位に位置する必要があります.このとき,エネルギーが必要でそのエネルギーに相当する電圧が生じます.ただし,ゼロ電圧でないからといって,超伝導状態が壊れたわけでなはい(電圧状態と呼ぶ)ことに注意してくださいね. 電圧状態では,通常のオームの法則に従う電子(準粒子)電流だけでなく,左右のクーパー対同士がエネルギーを吸収,放出し超伝導交流電流が流れています.これを交流ジョセフソン効果と呼びます. 量子力学的にはエネルギーは波動関数に時間的振動を与えます.そのクーパー対の交流の周波数はν = 2eV/hとなります.これは1 mVあたり約0.5 THzの交流電流が流れることを意味しています.
ジョセフソン接合の電流-電圧(I-V)特性
超伝導体は電流駆動であるため,独立変数(横軸)に電流を示すべきでありますが,歴史的慣例により,電圧Vを横軸に縦軸に電流Iをとります. ジョセフソン接合に電流を印加していくと臨界電流IcまではV = 0で電流が流れます(Fig.1の状態).I = Icとなると突如としてエネルギーギャップ相当の電圧が生じます(Fig.1からFig.2への変化). さらに,電流を増加させると,やがて常伝導状態へと転移し,オームの法則に従うようになります.言い換えると普通の金属に戻ります.次に,電圧状態になるまで電流を流した状態から電流を徐々に減少させていくことを考えてみましょう.電流が臨界電流を下回る,つまりI < Ic であっても, 0 < V < 2Δ/eの範囲においてはトンネル可能な準位が存在しないためゼロ電圧とならず,大きなヒステリシス(電流の増加時と減少時で異なる経路を通る)を描きます. なお,電圧状態では交流ジョセフソン効果により高周波電流が流れているが,あまりに高周波のため,通常のオシロスコープなどでは測定できないため,準粒子のみの特性が観測されます.
固有ジョセフソン接合
超伝導体になる物質はいろいろありますが,本研究室で注目している超伝導体はBi2Sr2CaCu208+δ という物質で, Bi-2212やBSCCO(ビーエスシーシーオーまたはビスコ)と呼ばれています. 超伝導転移温度は90K程度なので安価な冷媒(液体窒素)で動作可能です. この物質の特筆すべきは結晶中に超伝導層と絶縁層が原子スケール(nmオーダー)で自然積層しており, 結晶構造自身が多積層のジョセフソン接合を形成しています(固有ジョセフソン接合と呼びます). これは1cmの立方体に600万個以上のジョセフソン接合(デバイス機能)がパックされていることを意味しています。 我々はBSCCOの固有ジョセフソン接合はデバイス応用に最適な物質だと考え,新領域デバイスへの応用を目指して研究を行なっています。